小江戸川の桜並木を初めて歩いたのは、もう5年近く前のことです。
当時、測量の仕事で日本に渡って間もない頃で、小金井公園まで歩いて行けることが嬉しくて、週末になるたびに外に出ていました。昭和記念公園にも足を運びました。友人たちと企画したイベントで、妻とはまだ付き合っていなかった頃。あの春の記憶は、今でも妙に鮮明に残っています。
あれから時間が経って、今は韓国の華城市に住んでいます。そして今年の春は、生後八ヶ月の娘が初めて迎える春でした。
三月の第三週はまだ寒い。韓国の暦では三月から五月が春とされていますが、体はなかなか信じてくれません。それでも先週あたりから空気がほんの少し変わって、カカオマップに桜の名所ピンが並び始めました。それを見た瞬間、「ああ、今年も来たな」と思いました。
2026年の春は、平年より最大八日早く開花が進むと気象専門家が発表しています。ソウル市内の桜は四月一日から三日頃に咲き始め、四月八日から十二日が見頃の絶頂になるという予測です。京畿道の南部、絶品パンが楽しめる大型カフェなどおすすめスポットが多い平沢(ピョンテク)エリアもほぼ同じタイミング。例年より窓が短い分、今年は計画を早めに立てることをお勧めします。

今回訪れたのは、平沢大学校の桜祭りです。
平沢は京畿道の南端に位置する市で、米軍基地があることでも知られています。ソウルからは車で一時間ほど。華城や水原からならもう少し近い。この大学が毎年春に地域住民へキャンパスを開放する桜祭りを開いていて、今年でなんと三十一回目を迎えます。
ロケーションガイド:平沢大学校
住所:京畿道平沢市西洞大路111(111 Seodong-daero, Pyeongtaek-si)
お好みの地図アプリで経路をご確認ください。
三十一年。それだけ続いているということは、それだけの理由があるということです。

キャンパスに入ると、時計塔のある石造りの校舎が満開の桜に縁取られています。日本で言えば、大正か昭和初期に建てられたような重厚な雰囲気の建物と、淡いピンクの花びらの対比が美しい。ソメイヨシノ系の白に近い花が多く、日本の桜と見比べても遜色ありません。
ただ、韓国の桜で毎回驚くのは、その密度です。道を五分走るごとに、また別の桜並木が現れる。街路樹として徹底的に植えられているので、どの道を走っていても春になると桜のトンネルになります。日本の桜も美しいですが、この密度は韓国独特のものかもしれません。
桜を見ながらキャンパスを長く歩いて、もしお気に入りの靴のヒールが傷んだりすり減ったりした場合は、街中でよく見かける韓国の路上靴修理屋さんの利用ガイドを参考にして、安く新品のように直してみてください。

祭りの日程は、今年は四月三日(金)から四月十二日(日)の十日間です。
営業時間は平日が午後六時から十時、週末は午前十時から午後十時。韓国の駐車文化は少し独特ですが、駐車場は祭り期間中に臨時のスペースが設けられ、無料で利用できます。ただし週末は混雑するため、早めに来るか、平日の夜に来ることをお勧めします。私が訪れた週末も、駐車スペースを見つけるまでに何周かしました。
会場内には、フードトラックが運動場に並んでいます。
ヤキソバ、パッタイ、牛ステーキ、ケバブ、トッポッキ、スンデ、魚の練り物…韓国の屋台フードがひと通り揃っています。カード払い可能なところがほとんどで、お酒を売っているブースもあります。私は揚げイカと海老を買いましたが、量が多くて食べきれなかった。正直に言うと、少し割高でした。次はお弁当を持参して、芝生に座ってゆっくり食べようと思っています。そのほうがこの景色には合っている気がします。
金魚すくいや射的のゲームコーナーもあって、子連れのファミリーが多く来ていました。建物の中のトイレも開放されているので、赤ちゃん連れでも安心です。私もベビーカーを押しながら来ましたが、トイレの場所がわかってから気持ちが楽になりました。

でも、この祭りで一番心に残ったのは、夜でした。

夕方になると、キャンパスの車道沿いに街灯が灯り始めます。その光が白い桜の花びらを照らす瞬間、昼間とは全く異なる空気になります。背景が暗くなることで、花だけが浮かび上がるような感覚。ほのかに冷えた春の夜風の中で見る桜は、どこか幻想的で、静かで、じっと立ち止まって眺めていたくなります。
日本でも夜桜は馴染み深いものですが、平沢大学の夜桜は人が多すぎず、照明も派手すぎず、ちょうどいい距離感があります。平日夜六時からの開放は、仕事帰りに来られる地域の方々のためでもあるのでしょう。韓国人の友人の話では、平日夜に来るほうが人が少なくてゆっくり見られると教えてもらいました。なるほど、と思いました。

日本から韓国へ旅行で来られる方、あるいは仁川や水原・華城エリアに住んでいる日本人の方に、平沢の桜はあまり知られていないと思います。弘大や汝矣島のような有名スポットに比べると、観光地としての知名度は低い。でもその分、地元の人たちと一緒に春を過ごすような体験ができます。三十一年続いてきた理由が、行けば少しわかります。
タイミングについては、今年は特に注意が必要です。開花が早い分、気温が上がれば見頃が三日から五日さらに前倒しになることもあります。訪問前に京畿道観光公式サイトや大学の告知ページで最新の開花情報を確認してから動かれることをお勧めします。
小金井公園で桜を見ていたあの春、自分がいつか韓国に戻って、外国人の妻と子どもと一緒に桜の下を歩くことになるとは、想像もしていませんでした。
娘は花びらが降ってきても、何が起きているかわかっていません。でもベビーカーを押しながら並木道を歩いていると、日本で働いていた頃のことや、妻と出かけた頃のことや、いろいろなことが静かによみがえってきます。桜には、そういう力があります。派手ではないのに、記憶を引っ張り出してくる。
娘が自分で歩けるようになる春が来たら、また一緒に来ようと思っています。今度は手をつないで。
韓国の桜スポットをお探しの方の参考になれば嬉しいです。特に平沢・華城方面へのアクセスや、日本人が驚く韓国のリアルな運転事情と春のドライブルートについてはまた別の記事でご紹介する予定です。この記事が参考になったと思ったら、韓国旅行を考えている日本人の友人にシェアしてもらえると嬉しいです。








